未来の価値 第29話


「やってくれたね、父上も」

明らかに顔色を無くしたクロヴィスが、深い深いため息を零した。
まさか自分より上の継承権をルルーシュに与えるとは、想定外過ぎた。

「すみません、やり過ぎました。まさか皇位継承権をあげてくるとは、想定外でした」

成果を出しすぎた。加減を間違えてしまった。
憔悴しきった顔のルルーシュは、その顔を両手で覆いながらソファーに身を沈めた。
継承権を放棄したいところだが、あれだけ大々的に発表されてしまうとそれもかなわない。5位はどうあがいても動かす事は出来ず、かといって順位を下げるために無能を演じる訳にもいかない。
そんな思考に囚われていると、馬鹿にするような笑い声が室内に響き渡った。

「疲れて脳が寝ているのかルルーシュ。実績をいくら上げた所で継承権が変わるはずがないだろう」

もし、個々の能力で継承権が決まるなら、1位はシュナイゼル、2位にコーネリアが来て、オデュッセウスとギネヴィアはその下になるだろう。 そもそも、実力勝負で競わせていれば、金食い虫の皇族が我が物顔で闊歩するなんて事態にはならないのだ。
ルルーシュは例外中の例外。
幼いころからその順位は常に変動しており、今までは庶民腹だという理由で下の兄弟が生まれれば、その分下がっていったが、今度はその有能さゆえに順位を上げたのだ。あり得ない繰り上げに、悪意以外のどのような意味があるのやら。
チーズがとろけたピザをはふはふと口にしながらC.C.は呆れたように言った。
そう、本来ならいくら実績をあげようと17位より上に上がる事は無かったはず。
上げたことに、一体どのような意味があるのだろうか。

「だが、実際に上がってしまった。それもクロヴィス兄さんより上にな!」
「私に怒鳴っても何にもならないぞ」
「・・・っ解っている!」

ルルーシュは苛立たしげに怒鳴り付けると、疲れ切ったように息を吐いた。
この後はお披露目と言う名の見世物が始まる。
皇位継承権が5位になった以上、これから向かう会場では暗殺の心配もしなければならないだろう。

「ルルーシュ、落ち着きなさい。例えお前が私よりも上位となっても、私は協力をやめたりはしないよ」

既に手伝うと決めた以上、たがえる気はない。
クロヴィスはいつになく真剣な表情でそういった。
それは頼りになる兄の姿だったが、クロヴィスの実力を知っている以上、頼りにするわけにはいかなかった。それでも、ルルーシュの心は幾分か軽くなった。

「改めて言うのもおかしな話ですが、俺は皇位継承権など興味はありません。兄さんが皇帝を目指すというならば、全力で手伝いますよ」

あの5人の中で選ぶなら、シュナイゼル。
次点は消去法でクロヴィス。
オデュッセウス・ギネヴィアに比べればずっといいし、コーネリアでは軍事主義になる。

「ルルーシュ、冗談でもそんな事を言うのは止めなさい。私は皇帝の器では無い」
「今の皇族に、皇帝の器を持つ者はいませんよ。父上を含めて。それよりもC.C.」
「解っている。エリア11に戻り次第、私はナナリーの元へ行こう」
「ああ、ナナリーの事は任せる」
「折角の毒見役を自ら手放すとは思わなかったが、まあ、仕方がないか」

C.C.は不老不死。
だから、毒を呑んだ所で死んでもすぐ蘇生する。
これから数多くの暗殺者に狙われるだろうルルーシュの毒見役として、ここ最近はルルーシュの傍にいたし、今後もルルーシュの傍にいてほしいとクロヴィスに言われたのだが、こうなった以上ナナリーを守る手を増やさなければ、そっちの心労でルルーシュが倒れかねない。

「ヴィレッタを教師としてアッシュフォードに潜り込ませる手筈は進んでいる。兄さん、これはそのまま進めて構わないんですよね?」
「ああ。ヴィレッタをナナリーの担任となれるよう勧めなさい」

純血派に所属する、能力も高い軍人でしかも女性。
その事からヴィレッタは皇族直属の極秘任務に当たることとなったのだ。
爵位を欲していたヴィレッタに、男爵の地位を与えたことで、必ず役目を果たして見せますと力強く答えてくれた。



ルルーシュの想定通り、ナナリーを取り巻く環境は激変し、連日マスコミが押し寄せるだけではなく、生徒たちの好奇の視線も向けられ、クラブハウスから出る事も出来ない状態となった。さらにはクラブハウスの中を覗きこむような生徒まで現れ、ミレイ達は生徒の取り締まりに奔走していた。
そのうち、本当にナナリー皇女殿下ではないのか検証すべきだという声が上がり、ルルーシュが手入れをし、綺麗に切りそろえていたその美しい髪をひと房テレビカメラの前で切り落とされ、それを検査するという特番まで組まれたのだ。
これにはルルーシュだけでは無い、クロヴィスも抗議したが、それでもその番組は強行され、ナナリーは正式に皇帝の血縁者では無い事が証明された。
表立ってルルーシュとクロヴィスが反発したため、誰にも気づかれなかったが、この番組はルルーシュがギアスで操り作らせたものだった。

スザクとともにナナリーのもとへと向かったあの日、ルルーシュはナナリーの美しく長い髪を自らの手で切り落としていた。
肩よりも短い長さで切りそろえ、今までと同じ髪形のかつらを用意した。
DNA検査は一般的に髪の毛を用いる事が多い。
それは相手を傷つけることなく、気づかれること無く容易に手に入れる事が出来るから。何時誰がナナリーの髪を検査に出すか解らない。出されてしまえば、このにいるナナリーが本物だとバレてしまう。
だからその可能性を消し去るために、何度も何度も謝りながら、涙をこぼし、ルルーシュはナナリーの美しい髪を、震える手で切り落とした。
誰よりもこの髪を愛でていたのはルルーシュだ。
そのルルーシュが下した結論を、ナナリーは素直に受け入れた。髪は女の命と言うが、ナナリーの命はルルーシュだから、兄がそう願うなら惜しくはなかった。
そして、人毛でできたかつらを常に身につける事に従ったのだ。
これで万が一検査をした所で皇族の遺伝子は出てこない。
だが、いつ、誰が検査をするか解らないことに変わりはない。そんな状態でいつまでも置いておくルルーシュではない。だから自らテレビという媒体を通して公開することで、ナナリー生存に関する可能性を握りつぶし、これが決定打となり、ナナリー生存を訴えていた者たちは消え去った。
それでも、ナナリーの周りの騒音はしばらく続いたのだが、ある日を境にそれらは気にならないレベルにまで激減した。
理由は、簡単だ。
ナナリー以上の話題がうまれたから。
皆そちらに意識が向いたのだ。

コンベンションセンターで起きた旧日本軍の残党、日本解放戦線によるテロ。軍でさえ手をこまねき、数名の人質の命が失われたその場所に現れたテロリストが、自ら正義の味方を名乗り、多くの人の命を救いだしたのだ。

『世界は我々黒の騎士団が裁く』

ゼロと名乗った仮面の男は、威厳のある声でそう声高に宣言した。

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